こっち向いて? 〜中岡さんシリーズ〜

オムライス〜中岡編〜

 中岡が料理に五月蝿いのには理由がある。それは中岡の趣味の一つが料理で、作る料理がどれもこれも美味しいからだった。どこか飲食店で食べた料理を気に入ると、わざわざそれを自分で作って再現して、更にアレンジまで加えてしまうほどの腕前だ。南夕は料理の腕が悪いわけではないのだが、それは中岡よりも多少劣る。だから中岡の感想を勝ち取る事が困難だった。
 そういうわけでいつも南夕が料理をするわけでなく、むしろ中岡のほうが作ることが多かった。中岡は大体南夕のリクエストを聞いて、それを作っていた。

 今日の南夕のリクエストはオムライスだったので、卵をたっぷり使ったふわふわオムライスを作ろうと思い立った。早速料理に取り掛かるはいいが南夕が犬のようにちょろちょろと周りを動き回るので、中岡は邪魔だとばかりに南夕をキッチンから追い払う。
 野菜をやや荒切りにしてさっと炒め、卵は半熟の状態でライスを包む。綺麗に盛り付けてデミグラスソースと生クリームを少々垂らす。盛り付けだって立派な目の食だ。中岡は料理に対して妥協しなかった。
 二人ぶんの用意をして南夕のところへ運んでいくと、南夕は食べたくてたまらないといった様子でそわそわしている。こういうところがまた妙に素直で可愛いと思ってしまう自分に、中岡は密かに苦笑した。
「食べていい?」
「どうぞ。よく噛んで味わってください」
「はい。いただきます」
 南夕は嬉々とした表情でオムライスをじっくり眺め、緊張の瞬間のようにゆっくりとスプーンを差し込む。中岡はそれを眺めて、穏やかな表情で見つめた。
 味わえなんて、彼女には言う必要は無いかもしれない。自分もオムライスを口に運びながら、中岡はそう思った。今だってこんな風に、なぜか妙に生真面目な表情で黙々と食べている。
 南夕はいつもそうだ。面白いことに彼女は、一風変わった味わい方をしてくれる。 美味しいものを食べると途端に味に集中して味わおうとして、真顔になる。つまり美味しければ美味しいほど、南夕は真剣な表情になって料理に挑む傾向にある。
 けれど南夕には言っていないが、実のところ中岡は、人の為に料理をするのが好きではない。全て自分の為に作って自分が味わえていればそれでいいと考えていたりする。ではなぜ、そこであえて中岡はわざわざ南夕のリクエストに応えて作るのか。
 南夕がふう、と一息ついてお茶を一口のみ干した。その時、ずっと南夕の食べるさまを眺めていた中岡と目が合って、南夕はきょとんとした目で中岡を見た。
「なに?」
「……美味しい?」
 中岡には返ってくる答えに予想がついていた。それでも聞きたかった。聞いてみたかった。南夕は少し間をおいてから、はにかむように笑って応えた。
「……すっごく!」
「……そうか」
 これ。
 これだ。これが本当にたまらない瞬間だ。南夕の持つ可愛らしさというものが最大限引き出されたかの微笑みが見られる。しかも本人は無自覚。
 彼女はいつも、中岡の料理を食べているときは真剣で、美味しいかと聞くと心からじんわりと味わうように笑う。その男心を掴むようなギャップと、自分の料理をこんなに味わって愛しんでくれる彼女を、中岡は大層気に入っている。
 この瞬間を見ていられるなら、彼女のためだけになら美味しいものを作ってやってもいい。
 だから中岡は、南夕の為に、今日も作り続ける。愛し可愛いし彼女のために、作り続ける。

fin. 2010/4/10微修正。

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