リクエスト小説:「龍神サマの憂鬱なデキゴト」「村人たちの災難?」


 その年は酷い日照り続きだった。畑の作物は枯れ、田も干上がり、ごうごうと音を立てていた大きな川の水も小川程度しか流れていない。幸い井戸の水は涸れていないため全てが干上がることだけは避けられたが。
 そして、村の中心。村長が住む少しだけ他の家よりは立派に見える家の中でひそひそと不穏な会話がされていた。

「雨が降らないと本当に干上がってしまう。どうしたもんか」
「雨神様にお祈りはもうとっくにしたしなぁ」
「他の雨をつかさどる神様にもお祈りしたのに」
「数少ない作物を捧げたりもしたのに……どうして……」
「やっぱりうちの村の痩せたひょろひょろの作物じゃあだめだったんじゃないか?」
「それなら何を差し上げたらいいのだ? もうワシらに捧げられるものなど残っておらんのだぞ」
「だったらもっと気に入ってくださるやつを捧げるんだ」
「だから何を?」
「生贄さ」
「そんな……!」
「でも確かに、貴重な作物や神酒、果ては鶏までも捧げたというのに効果は無かった」
「人と、神酒を捧げてお祈りすれば何とかなるかもしれない」
「そうじゃな。それしかないかの」
「じゃあ誰を?」
「女がいいだろう」
「若い娘の方が……」
「ああ。山の方に一人で住んでる代わった娘っ子がいただろう、あれがいい」
「確かに綺麗だな。いいじゃないか?」
「うむ。出来るだけ美しく飾らせるんじゃぞ」
「はい」

 そして。山の方に住んでいた娘……樹奈(キナ)にそのことが伝えられた。伝えられた頃には村のもの全員の合意があったため樹奈に拒む術は無かった。

 明日、捧げものに……いや、生贄になるのだ。龍神様の嫁になるのだ。恐れ多い。そして哀しい。樹奈はそう思っていた。哀しいと思ってはいけないのに。

 翌日。樹奈が住んでいた山とは反対側の日が昇る山。その山の龍神が住む大きな池に樹奈は連れてこられた。美しく飾り立てられて。
 そして村人たちは樹奈と精一杯のご馳走を池の前に置き、祈り始めた。


『…………祈りの歌…………? また人間どもか…………今度は何だ?』
 人々が龍神と呼ぶ存在は気まぐれで外に――池の上に――出てみた。
 村人たちはしばらく一心不乱に祈りの歌を歌っていたが、最初に樹奈が気づいた。

「! 龍神様!」
「何じゃと? っ!」
『何用だ。人間。我の眠りの邪魔をするか』
「そ、そんな滅相も無い! 雨がここの所まったく降りません。作物は枯れ、田は干上がり、川も殆ど水がありません。どうか……」
『雨を降らせろ、と?』
「お願いいたします! この娘を捧げます!」
「……っ! き、樹奈と申します。……よろしくお願いいたします……」

 樹奈は震える声で挨拶し、頭を下げた。だが、龍神と呼ばれた存在は不機嫌そうに眉をしかめた。

『いらぬ』
「は?」
『生贄などいらぬ。人は嫌いだ。身勝手な願いばかりする』
「そ、そんな! 雨は……!」
『さっさと帰れ』
「……は、はい!」

 村長をはじめとした村人たちは龍神に睨まれ脱兎のごとく逃げ出していった。……しかし。龍神が再び眠りにつこうとした時。まだ人の気配が残っているのに気がついた。

『…………何故残っている?』
「も、申し訳ありません。動けないのです……」
『何故』
「足を縛られていて……とても歩いて帰ることは出来ません」
『あの村人どもが……雨など一生降らせてやるものか』
「お願いします! 私はどうなっても構いませんから、どうか雨を降らせてくださいませ!」
『……何故お前を生贄にしようとした奴らを庇う』
「それでも……本当はいい人たちなんです。だから……」
『……わかった。だがこれっきりだ。我はもうここから離れることにした。数年は普通に雨が降るだろうがその後はまた降らなくなる。お前もついて来い。それが条件だ』
「え……。人はお嫌いなのでしょう?」
『龍神と呼ばれている我に気丈に口答えしたのはお前が初めてだ。気に入った』
「!」

 そして龍神の気まぐれでようやく村に雨は戻った。礼を言いに池へと行ったが龍神も、池に沈んでいてもおかしくないハズの樹奈も見当たらなかった。

 7年後。龍神が樹奈に語ったとおり雨がまた途絶えた。村人たちは龍神にのりを捧げたが効果は無かった。それもそのハズだ。龍神などもうこの地にはいないのだから。
 村人たちは村を捨てた。井戸も涸れる、川も涸れてしまったからだ。

 村の水が涸れた原因は、『祈り』にあった。村人たちは繁栄を祈りすぎたのだ。雨が降らなくなる前までは――樹奈を龍神に捧げる一年程前までは――裕福で豊かな村だったのだ。それを永遠に望んだのだ。村人たちは。さらなる繁栄と豊かさを。実りを。
 純粋な祈りではなく、欲望にまみれた祈りだったために水源を司る水竜が弱ったのだ。勿論龍神ではない。
 龍神はその弱った水竜と樹奈を連れ、この地を去ったのだ。村人を見限って。水竜が去ったため、その反動でしばらくはたくさんの水があったがその反動も長くは続かないため再度水は涸れたのだ。

 そして龍の里では龍の末席に加えられた樹奈と龍たちを統べる龍神の姿があった。
 その後も二人は幸せに暮らしたそうだ。いろいろと波乱な事はあったが。
「村の人達大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫だろう。あいつらはしぶといからな」
「……。そ、そうですね……」

余談
村を捨てた村人たちはそこそこな土地を見つけ、そこで細々とながら幸せに暮らしていた。らしい。多分。

 …end.





月光乱舞 ―白夜調―の白夜様にリクエストで小説を頂きました。ありがとうございます^^
 とみの『和風ファンタジー』のリクエストで、龍神様とそのいけにえになった娘さんのお話を頂きました。
 樹奈さんがとても可愛らしいです!村人さん達もなんとか幸せに生きていけたようでよかったです。


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