極彩色伝

6.国の仕組みとビッグフット

「げもひゃーおうひはま、あはひがへんへんひへおーはいひになふってひゅうのはひょっひょむひははふふへはい?」

 話しているうちに日が暮れてしまったのでラミストと色はひとまず近くの宿屋に泊まり翌朝王都へ出立することにした。
 ちなみに二人の容姿は嫌が応にも目立つのでマントで変装しながらの旅である。

 宿屋の下の酒場でパン…というよりナンのようなものを口いっぱいにほおばりながら色がたずねた。朝から何も口にしていなかったのでがっついているようだ。
 …見苦しいことこの上ない。

「…いや、すまない。何を言っているのか解らないのだが」

 先ほどまで泣いていたとは思えないほどの色の立ち直りの早さにラミストは苦笑しつつ水を手渡した。

「んぐう…ふう。ごめんごめん!いやつまりね、あたしが宣伝して王太子になろう!計画はちょっと安易な気がすると、こう申し上げているんですよ王子様」

 食べだしたら止まらないらく、言い切ってから再び料理に手を伸ばす。対してラミストは料理には余り手をつけず透明な食前酒を舐める程度に飲んでいた。

「そうでもないさ。この国は神を尊ぶし黒は神の象徴でもある。君が天使として現れれば相当の衝撃だろうよ」

「この国の神様って?何で黒が神様の象徴なの?大体私がそんな衝撃天使だったら最初から売られてないし」

「あそこは丁度国境に位置するからな。様々な人種や外国の者も多いから信仰はないに等しい。この国の神はパルゥダス、偉大なるパレィル河の神でありわが国の守護神だ。何故黒なのかは、見れば解る」

 いっぺんに質問した色にラミストは一つ一つ律儀に答えた。

 しかし河の神が守護神とは変わっている。普通は天使といったら空とか太陽とか手のとどかなそうなところにいる神様ではないのか。
 しかも見ればわかるって言われてもどうやって神様を見ればいいというのだろう…。
 聞けば聞くほど色の頭はこんがらがっていった。

「んんー…んんんん。じゃあパラディス国…だっけ?専制君主制なの?」

「いいや、どっちかというと立憲君主制だ。国として定めたことを王も民も同じように守らなければならない」

「りっけんくんしゅせい…」

 いわゆるイギリスの国と同じようなものだろうか。憲法に従って君主が政治を行う制度と聞いたことがあるようなないような…。
 曖昧な記憶に色が首をかしげているとラミストが更に詳しい説明を続けた。

「国王は否決権と可決権を持ちその下に可決権を持つ政権会と五太子、さらにその下の民議会で成り立っている。」

「みんぎかい?せいけんかい?ごたいし?」

 聞いたことがない言葉ばかりで色は頭がパンクしそうになった。もともと日本にいた頃も政治には興味なかったのでラミストの話はちんぷんかんぷんだ。
 眉根を寄せる色にラミストは辛抱強く説明した。

 まとめるとこうである。
 政権会は法に基づき動き普段は王の補佐、議会では全体で一つ可決権を有している。五太子は王の直系から5人集められていてこれも全体で一つ可決権を有する。最後に民議会は民衆の中から選ばれたものが集まり、五太子と政権会が可決して王が否決したときのみ可決権を有することができる。
 聞くところによると非常にややこしいが五太子は国王候補の候補…つまり王太子候補が5人集まっているようなものなのだそうだ。ラミストはそこに名を連ねているらしい。
 色がラミストの話を頭に詰め込み終わる頃には酒場にいた人はちらほらとしか残っていなかった。

「これでこの国の決まりはわかったか?」

「うん…でもなんでそこに天使だの神様だのが関係するの?」

「この国の国教だからだ。法にも大きく関っている。そういった中で天使の祝福、神からの啓示を受けるということは絶大な力を得ることになるのだよ、イル。」

 色のセミロングの黒髪をなでながら微笑みラミストは答えた。つややかな黒髪を愛しむように手の中で玩ぶ。

 ラミストのすらりと伸びる手をぼんやりと眺めながら、色は頭の端でだんだんとパラディス国の大まかな形を捉え始めた。
 つまりこの国は三つ(四つ?)の独立した権力で均衡を保ちそれを神という存在で一つにまとめているのだ。
 信仰というのはまとめる力が強いということをどこかで習ったような覚えがあるので、案外すんなりとそのあたりは理解できた。
 しかし一つだけ気になる問題が残っている。
 どうかこんな推測当たっていませんように…!そう願いながらどきどきと今だ色の髪に見ほれるラミストに問いかける。

「どうしてラミスト様は…あそこに居たの?」

 王子の手がぴたりと止まり、わずかにため息をついた。色はごくり、と喉を鳴らす。

 しかし思いつめた色の様子に気づかずラミストはこともなげに答えた。

「ああ…あそこは人身売買や不法取引が行われていると黒い噂が絶えなかったからな。証拠を掴んで潰そうと思い忍び込んだんだよ。おかげでイルに出会えたから皮肉なものだけどね」

 ラミストは苦笑するが色の表情は一気に明るくなった。

「そ、そうかあ!よかった!あたしてっきり王子様は人を物扱いする悪者なのかと思っちゃったよ!そうだよね、そうだよね!あんなところ早くぐっちゃんぐっちゃんに踏み潰しちゃってくれ!」

 ラミストは巨人ではない。あんな巨大なテントを踏み潰すのはよっぽどのビッグフットだ。
 潰すの言葉のニュアンスを別の意味で捉えた色にラミストは声を上げて笑った。

  

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