5.勘違いと罪な女
ラミストの言葉に色の意識は吹っ飛んでいたがしばらくして地上に戻ってきた。冷静に考えてみようと自分を落ち着かせ普段くもの巣がはっている脳をフル稼働する。
(もしかしてこれは遠まわしのプロポーズ?乙女ノベル(色は愛読者)っぽいのによくある『一目見て心を奪われた…』みたいなやつか!?)
ものすごい脳みその使い方だ。恐ろしい思い込みで他にありそうな例を考えるまでもなくいわゆる『かっこいい王子様が異国の娘に一目ぼれ☆』を採用した。
「い、いやぁ〜…ちょっと…そんな急に言われてもまだ知り合ったばっかりだし…あーこのバカッ!やだーもう!」
何がバカなのだろうか…無礼にも馬鹿呼ばわりされた王子のほうがやだーもうと言いたい。
色は初めての告白(!?)にテンションは最高潮に達していた。
「いや…俺はバカではないぞ?知り合ったばかりであっても関係ない。俺には君が必要なんだ」
目を瞬かせて至極真面目な表情で言い返すラミストに色の思い込みはヒートアップする。
「うわっぅわっ…必要だって!あーあたしって罪な女!てっ、天使って…!いやー!キザー!素敵ー!!」
嫌なのか素敵なのかどっちだ。
顔を赤くさせて叫ぶ色にラミストの口が引きつったように見えたのは気のせいではないだろう。
「何か知らないが…とりあえず気を静めてくれ」
「ぁー…はい!うんOK王子様!どんとこい!」
気は静っていないようだがどうやら話を聞く姿勢(?)をとってくれたらしい。ラミストはほっと胸を撫で下ろし本題に入った。
「君のその黒目黒髪はこの国には、いやおそらくこの世界には存在しないだろう…。とても奇異な存在なんだ。君は」
「おうおう…だからあんなに人が見てたのか…珍獣のごとく。許せん!このあたしを珍獣扱いとは!」
憤慨してまたもや一人で突っ走ろうとする色。しかしこれでは話が進まないのでラミストは無視して話を続けることにした。
「まあとにかく君は奇異ではあるが逆に考えると希少で、今まで目撃情報もなく降って湧いたように現れたこともあり神秘的とも言えるわけだ。そこでだ。俺は一目君を見て確信した」
「ぁー…ふふ…ぃやーお恥ずかしい」
とてつもなく舞い上がっている色は王子の言葉にだらしなく笑う。正直不気味な様だが早くもそんな色に慣れてしまったラミストはそれにかまわず、勘違いする色に衝撃を与える一言を放った。
「君は俺の立太子に使わされた天使だ」
「そー、俺の立太子…ぇ?」
「君が何者かはわからないがこれは俺にとって神に与えられた啓示といっても過言ではない。だから君には神が俺に与えもうた祝福…天使として俺に使えて欲しいのだ」
「はぁあぁぁ!?」
あまりの衝撃発言に色の顔は人間業とは思えないほどにゆがんだ。
異常な態度を取る色に気づかずラミストは嬉々として熱弁する。…どうやら意外なことにラミストは天然らしいことがここで発覚。
「ここはパラディス国で、俺が第4王子という事はもう教えたよな?ポジションとしては微妙なのだが」
「ちょっと待った!!」
あまりの衝撃に色はあっけに取られていたがすぐさま気を取りとめストップをかける。
「ん?どうした?」
「ぃや…ちょっと整理しようじゃないか。つまりあれか…あたしはあんたの選挙のウグイス嬢になれと…そういうわけか。」
「センキュー?ウグィスジョー?」
突っ込んでくださいと言わんばかりのボケだった。
「違うわ!ありがとうでもジョーでもない!あんたが王様になるための宣伝をあたしがするのかって聞いてんの!」
「王ではない。王太子だ」
「どっちでもいいわ!」
激しく突っ込む色は鬼気迫る顔つきだった…無理もない。あんなに舞い上がり勘違い発言をかましていたのだから。
「どっちでもいいことはないが…まあそういうことになるな」
「ぅーぁーマジかよ〜…あたし超勘違い女じゃん。穴があったら埋め立てられる勢いで入りたい…」
頭を抱えてしゃがみこむ色にラミストは怪訝な表情を浮かべる。
「んー…。カンチガイシテスンマセンデシタ。コレカラハツツマシクイキテイコウトオモイマス」
「は?」
「いやこっちの話…。わかったよわかりましたああわかったさ!」
「ぶっ」
色がいきなり立ち上がったので様子を伺おうとかがんだラミストのアゴに色の頭がクリーンヒットした。
…端正な顔なのにおいたわしや。
「アイヤー…ごめんアルよ。」
「い…いや…」
どんな謝り方だ。
いんちき中国人ばりの喋りだったがラミストには通じたようだ。しばらく悶絶していたがアゴを抑えてラミストも立ち上がる。
「そ、それで…なにがわかったんだ?」
「ん?ぁー天使!あたしラミストさんの天使になるよ!宣伝しまくってあげる!」
「本当か!?」
色の肩を鷲掴みにしてすごい勢いでラミストが聞き返す。端正な顔がいきなり迫ってきたので色は思わず赤面した。
「ぅ、うん…助けてもらったしね。そのかわりこの国にいる間は約束どおり守ってね。」
「ああ、ああ!もちろんだ!よろしくな!イル。」
ラミストのまばゆいばかりの満面の笑みにあてられて、色は卒倒しそうになった。
喜ぶラミストの隣で、生まれて初めてのプロポーズが幻だったことに色が少しがっかりしたことは…ここだけの話。